傘の中の音

雨に打たれながら咲いている紫陽花があまりに可愛かったので、今年もまた動画を撮りました。住んでいるマンションの庭に咲くなんの変哲もない普通の紫陽花が、私には毎年、とてつもなく可憐に見えるのです。薄いピンクの花と薄い紫の花の両方を撮りました。花全体を撮って、それから、花にぐっと近づいて、花の中を覗くようにして撮るのが好きです。そうすると、花を構成するひとつひとつのパーツの造形の美しさがにわかに立ち現れて、何度でもはっとしてしまいます。

部屋に帰って撮った動画を見ていたら、差していた傘を打つ雨音が、紫陽花のうしろにはっきりと録れていました。ポツポツ、パラパラ、トットットッ。さっきは撮ることに夢中になって気付かなかったけれど、雨足はずいぶんと強かったようです。

何年か前に息子が、エモい音聴かせたろか?と言って、自分のスマホに繋いだイヤホンの片方を渡してきたことがあります。エモい音ってどんな?と思いながら聴くと、それはこれと同じような雨音でした。その時息子はそれを、『傘の中の音』と言ったと思います。

傘の中で聴く、雨粒が傘を叩く音。傘が雨粒を弾く音。なんでもないそれを、息子はエモい音、と呼び、私は、訳もなく好きな音、と呼びます。