洗濯物を干そうとベランダに出たら、その瞬間、目の前の空間に雪が、ふわっと舞い上がりました。それから、数えられるくらいの大きな粒の雪が数個、風に乗って右から左へ、ランダムにゆっくりと横切っていったのです。「わぁ雪だ」と思うのと、「あ、違う、桜だ」と気付くのとが同時でした。マンションの庭にある桜の木の花びらが、私の暮らす四階の高さまで舞い上がってきていたのです。ずっと昔に祖母が教えてくれた「風花」という言葉が好きなのですが、風に散るようにして舞う雪のことを、古(いにしえ)の誰かは本当に、一瞬、桜の花びらと見間違えたのかもしれません。私が桜の花びらを、雪と見間違えてしまったように。
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友だちの家に遊びに行ったら、「ちょうど今、届いてん」と言って、友だちは筍を茹でていました。手土産に持って行った桜もちや三色団子を食べながら、ちょうど窓の外に見える、隣りの公園の桜を二人で見ました。その日はひどい雨で、友だちは、明日は施設にいるお母さんが一時帰宅するから、桜のところでみんなで写真を撮ろうと思っているのに、こんなに降ったら散ってしまわんやろか?と言いました。私は、どやろうなぁ、と答えながら、雨粒は花びらを散らすのだろうか?それとも、花びらを散らせるのは風だけだろうか?と考えていました。それからはもう、私たちのどちらも桜のことはほどんど見ないで、筍を茹でている時の米糠の甘い匂いが充満する部屋で、文字どおりの花より団子の時間を過ごしたのでした。
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翌日、雨上がりの朝、散歩の途中で公園に寄ってみたら、散りかけではあるけれど、まだなんとか桜の花は健在でした。きっと桜と家族のいい写真が撮れるだろうなとほっとしました。でもやっぱり、雨は多くの花びらを散らしてしまったようです。地面は花びらが敷き詰められたようになっていました。その様子は花筏のようであまりに美しかったので、スマホを取り出して、私も写真を撮りました。花びらの一枚一枚は、ちょうど印象派の筆致のようであり、私の差す日傘の影も写り込んだりして、それはちょっと、モネが描いた絵みたいな写真になりました。
春です。
